最近ブログを書くことができず、不妊カウンセリング学会のご報告も
遅くなってしまいました
不妊カウンセリング学会でのお話です
私は2つの演題を発表しましたが
終わった後、暖かい言葉をいただいたり
質問をお受けし、質問に答えるのも、時間が無く
質問者さんは若い方だったのですが、十分伝えられたか心配です
その方も,一生懸命担当の患者様を治したいという気持ちなのでしょう。
私の症例でヒントを得ようと、真剣なまなざしでした。
何とかしてあげたいと思いましたが、答えきれず、名刺をいただけばよかったなと思います。私も逆の立場になることがありますから気持ちがわかります。
今回2演題のうち
「カウンセリングと中医学周期調節法でサポートし
妊娠・出産に至った難治性不妊症の一例」
についてご紹介したいと思います。
難治性不妊症とは
体外受精において、40歳未満の方が良好な受精卵(胚)を4個以上かつ3回以上移植しても妊娠に至らない場合を難治性不妊と呼ばれます。原因は様々ですが以下の疾患があると難治性不妊になる可能性があります。
厚生省の子ども家庭庁では、難治性不妊について以下の項目を挙げています
(1)高年女性の不妊
(2)子宮筋腫合併不妊
(3)子宮腺筋症合併不妊
(4)子宮内膜症合併不妊
(5)子宮内膜菲薄化による着床障害
(6)子宮内膜ポリープ合併不妊
(7)帝王切開瘢痕部症候群合併不妊
(8)多嚢胞性卵巣症候群による排卵障害
(9)卵管留水症による卵管性不妊および着床障害
(10)下垂体機能不全合併不妊
(11)慢性子宮内膜炎
厚生労働省から以下のガイドブックが出ております
「治療が難しい不妊症のためのガイドブック」
参考になりますので、確認していただけたらと思います
一般的に難治性不妊とは、⑴をのぞいて
40歳以下で、形態良好胚を4個以上かつ3回以上移植しても妊娠に至らない場合が判断基準とされています。
難治性不妊症の原因~東洋医学では
⑵~⑾まであらゆる疾患が挙げられており、原因は様々であるとされています。細かくは、ガイドブックで紹介されているので、ご覧になられたらわかると思いますが、実は東洋医学ではそれぞれの疾患に共通点があります。
気虚
気が不足することにより、病邪から守る力が弱くなり邪気が入り、病気に至ります。気は「正気」とも言い、免疫力と深くつながりがあります
「正気存内、邪不可干」という言葉が昔からあり、「正気が体にあれば、邪気は体に侵入、干渉しない」という意味で、病気にならない一番大切な力です。
血虚
血が不足すると、身体が冷え、正気も損なわれ、邪気が入り病気に至ります
陽虚
冷えがあると、血の流れが悪くなり、正気も損なわれ、邪気が入り妊娠力が損なわれます
脾虚
胃腸の働きが弱いと、栄養が無くなり正気を養うことが出来ず、正気が損なわれ邪気が入り妊娠力が損なわれます
瘀血
血液の流れが悪いと、身体の老廃物が蓄積し、邪気を追い払うことができなくなり病気に至り妊娠力が損なわれます
熱毒
病気による炎症は熱毒となり、体を傷つけます。当然卵の質も低下し、着床障害の原因にもなり妊娠力が損なわれます
腎虚
腎の働きは生殖の働きを主り、免疫とも深い関係があります。腎虚であれば、免疫疾患に至りやすく、また妊娠力も弱まります。
東洋医学の考え方
難治性不妊症の原因として、それぞれ疾患別に考えられることもありますが、共通点があります。
病気の特徴を考えながら、その方の体質を判断し、病状と体質にあった漢方薬を服用していただくことで、より良い結果につながります。
完全に病気を治すことができなくても、その疾患が引き起こす不妊症に至る原因を、漢方薬で改善することによって、妊娠に至るサポートができます
気虚のタイプ
補気の生薬を主薬とした漢方薬を服用します。
補気の生薬として代表的なものは
人参、党参、黄耆、西洋参、山薬などです
ただ、正気を整える生薬として、
チャガ、霊芝、雲芝、霊芝胞子なども重要な生薬です
血虚のタイプ
補血の生薬を主薬とした漢方薬を服用します。
養血の生薬として代表的なものは
熟地黄、当帰、阿膠、白芍、竜眼肉などです
陽虚のタイプ
補陽の生薬を主薬とした漢方薬を服用します。
補陽の生薬として代表的なものは
鹿茸、蛤蚧、冬虫夏草、杜仲、続断、菟絲子などです。
脾虚のタイプ
健脾の生薬を主薬とした漢方薬を服用します。
実は補気の生薬は健脾の働きを兼ねるため、
気虚で紹介した生薬が参考になります。
瘀血のタイプ
血の流れを良くする生薬を主薬とした漢方薬を服用します。
血の流れを良くする生薬として代表的なものは
川芎、三棱、莪朮、蘇木、丹参、益母草、紅花などです。
熱毒のタイプ
清熱し解毒する生薬を主薬とした漢方薬を服用します。
ここで大事なのは、清熱する働きが強く過ぎると、身体を必要以上に冷やし、かえって妊娠力を損なう可能性があります。
清熱する生薬の種類と量は慎重に使う必要があります。
必ず、気を補う生薬と併用しながら服用する必要があります。
清熱解毒の生薬は
金銀花、蒲公英、野菊花、半枝蓮、白花蛇舌草などです。
腎虚のタイプ
腎虚には陽虚、陰虚、腎精不足がありますが、陽虚はすでにご紹介したので、こちらでは腎陰や腎精を補う生薬と考えます。
腎陰、腎精を補う生薬は共通するものもありますから、同じ項目としてご紹介します。
腎陰、腎精を補う生薬は
亀板、鼈甲、女貞子、旱蓮草、石斛、黄精、熟地黄などです。
少し長くなりましたが、以上の生薬が含まれる漢方薬を状況、体質に分けて、服用します
難治性不妊の場合は、複雑な要素が絡み、判断が難しいので、必ず詳しい専門家に相談していただくことが大切です
難治性不妊症の例
今回の論文は
「カウンセリングと中医学周期調節法でサポートし妊娠・出産に至った難治性不妊症の一例」
という題名で、発表いたしました
体外受精を繰り返し行い、移植を繰り返し、妊娠に至らず、最後には卵が育たず採卵ができなくなってしまった方の症例報告です。
論文に掲載する旨症例のお二人にご相談したところ、快く了承していただき、論文を提出することができました。
このお気持ちを大切にしたいと思います。
論文掲載の了承は頂きましたが、ブログは不特定多数の方がご覧になっていると思いますので、プライバシーのことを考え、年月、年齢、地域が特定される書き方を避け、ご紹介しようと思います。
Aさんが、採卵・移植を繰り返し、その中で妊娠もありましたが、残念なことに稽留流産で終わり、
ここ2年ほどは妊娠もなく、卵が育たず、採卵ができずに治療中断の中ご来店されました。
実はこのような状況でのご来店が多く、心も体も傷つき、どうしようもなくなり訪ねてこられるのだと思います。
現在ご来店いただいている方も、同じような方が多くおられ、希望を持ちながら不安の毎日でもあると思います。
AMHが低い状況であれば、採卵数も少なく治療を重ねると、卵巣が疲れてしまい卵が育たなくなることはよくあります。
ただ、残り僅かな卵と思うと焦りと不安で、結果が出るまで病院の治療を重ねておられる。
先日の不妊カウンセリング学会が終わった後の懇親会で、「ただひたすら治療を重ねるよりも、一度漢方薬で体調を整えて再度治療に臨んだ方が良いですね」と、ある有名な不妊ウィメンズクリニックの副院長の先生に、そのようにお話をいただき、真意が伝わってよかったと思いました。
Aさんカップルは、お知り合いの方からのご紹介でした。
体温は、ガタガタで不安定、高温期も短く、低温期が通常よりも高くなっておりました。
治療の影響もあると思いましたが
それにしても低温期の基礎体温が高く、
どのような原因か、判断が難しかったのを覚えております。
ただ、漢方の考え方は、ある程度原因がわからない状態でも、判断できる方法があります。
何かの原因で、体に熱が溜まり「熱毒」がある。
そして、仕事のストレスなどで、肝の気の流れが悪くなっている。
年齢や、治療などの影響で、「腎陰」「腎精」が傷つき不足している。
仕事や、体質などで、「正気」が損なわれ不足している。
様々なことが原因で血の流れが悪くなっている。
上記のことが判断できました。
大事なところから、一つずつ解決していくように、
漢方薬でサポートさせていただき、
パートナーの方もまた、妊活と体質改善のための漢方薬を服用いていただきました。
数か月後、体外受精に再挑戦
グレードAの胚盤胞に出会うことが出来ました
(今までで一番良い胚と伺いました)
実は採卵直後、Aさんは膠原病を発症されます。
ここで、「熱毒」の原因がわかりました。
この状況は、不育症につながる慢性病変です
膠原病は自分で自分を攻撃してしまう病気です
色々なものにも抗体を作る可能性がある、自己免疫疾患であり
免疫性不妊につながる可能性があります。
漢方薬では
「熱毒」について、「正気」を損なわないように、今までよりもさらにしっかり対処するようにし、
体温や、体調が良いところで移植、
無事妊娠、そして、かわいいお子さまに恵まれました。
出産時に、子宮の病気がいくつかあった事がわかり、これもまた不育症の原因だったかもしれないと思いました。
まとめ
形態良好胚を何度移植しても妊娠につながらない「難治性不妊症」は、様々な病因により、引き起こされます。ご来店されたときは、体外受精を始められてから何年も経過し、心も体もとても疲れておられた状況だったと思います。
じつは、このような方は少なくないと思います。
体外受精などの生殖補助医療は、不妊で悩む方の大きな力になる一つの方法です。ただ、お一人一人の妊娠力が至らない場合、それをもってしてもうまくいかないことも多々あります。
そのような時、東洋医学と併用すればさらに大きな力になるはずです。
「難治性不妊症」の原因を考え、その症状の改善方法をしっかり考え、きめ細かく対応すれば、非常に難しいと思われる状況でも、かわいいお子さまと出会える可能性があると信じております。
4年前に植えたクレマチス
最初は本当に小さいお花だったのですが、年々大きくなり
今年は花数も、大きさも立派!
「大河」という名前にひかれて植えたのですが
やっとそれらしくなってきました(笑)