前回、卵子の質を良くするとは、卵子の老化をできる限り遅らせて、しっかりと成熟卵胞を育てることとご説明し、喫煙やアルコールと卵の質の関係についてお話ししました。
この記事は約 6 分で読めます。 前回、自分の卵子の質を予測する方法についてお話ししました。 では、自分の卵子の質に自信が無い場合はどうしたらいいでしょうか?また、今自信があるなら、今後もその状態を保つために大切なことは …
今回は、その他のポイントから、卵子の老化を防ぎ、良い卵胞を育てるために大切なことについてお話しします。
1.喫煙
2.お酒
3.甘いもの・脂っこいもの
「糖化ストレス」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
糖化ストレスは、卵と卵子のお話し①女性は一生分の卵子を持って生まれるでもお話しした酸化ストレスと並んで、細胞にダメージを与えて老化させる原因となるものです。
食べ物からの過剰な糖は、体内のたんぱく質と結びつき変性させます。変性したたんぱく質は糖化最終産物(AGEs)と呼ばれる老化促進物質となり、それが細胞内に溜まることによって細胞にダメージを与え、細胞を老化させてしまいます。これを「糖化ストレス」と呼びます。
甘いものや脂っこいものは、この糖化ストレスを増加させることがわかっています。
糖化ストレスが卵へ与える影響について、現在までたくさんの研究がされてきました。
2011年には、糖化ストレスが生殖補助医療(体外受精など)に与える影響について研究した論文が発表されました(日本)1) 。
この研究では、生殖補助医療を受ける157人の女性の血液および卵胞液中のAGEs(特に毒性が強いtoxicAGE)の量と生殖補助医療の結果が分析され、結果、血液中及び卵胞液中のAGEsの量は、発育卵胞数、血中E2値、採卵数、受精卵数、胚数及び良好胚数と負の相関を示したというものでした。
つまり、血液中や卵胞液中のAGEsが多いと、卵が育ちにくく、エストロゲンが減り、採れる卵の数、受精する卵の数、良好な胚となる数が減るということです。
他にも、2017年にはIVF/ICSI(体外受精や顕微授精)を受ける女性の卵胞液中のAGEsの濃度を研究した論文が発表されました(中国)2) 。
その中でも、2011年の研究と同じように、卵胞液中のAGEsが多いほど、採卵数や受精卵数、良好胚数、受精率、良好胚率が低下し、また、採卵数が7個未満の女性の卵胞液中のAGEsは、それ以上採卵できた女性のAGEsと比べて多かった、という結果が出ています。
卵の質に自信が無い方は、卵子の老化に歯止めをかけ良い卵胞を育てるために、今は自信がある方はその状態を保つために、甘いものや脂っこいものは節制した方が良いでしょう。
糖化ストレスを増やさないような食生活を心掛けると、卵だけでなく全身の細胞の老化を防ぐことができます。どうしても甘いものが減らせない場合は、以下の記事もご参考ください。
食養生を薦める漢方薬剤師として、普段から「お菓子は控えてください。」とお伝えしていますが、実はお菓子が大好きです。東京で働いていた時代には東京のマダムから「スイーツ番長」と呼ばれていました。 でも、毎日お菓子を食べるわけではなく、いただきものも含めて、1~2週間に1回食べるか食べないかというペースを守るようにしています。 「食べることがストレス発散なんです。」 その気持ちはとてもよくわかります。私も食べることが大好き!お菓子大好きです。だからこそ思います。 「お菓子を食べたときに少しも自己嫌悪に陥りたくない。」 「お菓子を食べるときの幸せを最大限に感じたい。」 「お菓子が原因
4.食事
卵子の老化を防ぎ、良い卵胞を育てるお食事とはどんなものでしょうか?
実は、甘いものや脂っこいものを控えること以外にも大切ことがいくつかあります。
4-1.朝食抜きや無理なダイエットをしないこと
体に必要な栄養が足りず体重が減少すると、ホルモンバランスが乱れて卵胞が育たず、月経不順や無月経となることがわかっています。
体重減少性無月経の診断項目にも「体重が標準体重の80%以下(BMIに換算すると17.6以下)」という基準が含まれており、体重減少とホルモンバランスには大きな関係があるのです。
標準体重の90%まで体重が回復すると月経が再開することも分かっており、体重減少性無月経の場合はその値を目標に体重の回復を行います。
標準体重の90%とは、165cmの方で54kg、155cmの方で48kg、もしそれよりもご体重が軽い方は無月経予備軍であり注意が必要です。
標準体重の方でも、朝食抜きや無理なダイエットは栄養不足に繋がり、良い卵胞が育ちにくくなります。ほとんどのビタミンやミネラルは一度に吸収できる量が限られているので、毎食バランスよく摂ることが大切です。また、食事の回数が減ると食後の高血糖を起こしやすく、前述の糖化ストレスを増やす原因にもなります。お食事が抜けないように気を付け、毎食バランスよく栄養を摂れるようにしましょう。
4-2.一食につき片手一盛を目安にタンパク質を摂る
卵胞は細胞の一種で、細胞はタンパク質でできています。GnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)やFSH(卵胞刺激ホルモン)など、卵胞の成長を促すホルモンもタンパク質でできています。ですので、タンパク質が不足すると、これらがうまく作られなくなります。
2013年5月に開かれたアメリカ産科婦人科学会の年次総会で発表された研究によると、1日あたりのタンパク質の摂取量が総カロリー数の25%を超える女性は、25%未満の女性と比較して、胚盤胞の発生率が約1.4倍(54.3%対38.5%)、妊娠率が約2倍(66.6%対31.9%)だったそうです3) 。つまり、質のよい卵を作るにはタンパク質が不可欠ということです。
日本人の食事摂取基準(2020年版)で、成人女性のタンパク質の必要量は1日あたり40g、推奨量は50gとされています。タンパク質40~50gとは、鶏ささみなら4枚、牛ミンチなら200g、鶏もも肉なら300g、鮭なら3切れ、ししゃもなら8匹ほど。ですので私は、「三食片手一盛を目安に、タンパク質を摂るようにしてくださいね。」とお客様に伝えています。
特にタンパク質が抜けやすいのが朝と昼です。朝はパンとヨーグルトだけで済ませたり、お昼はおにぎりや菓子パンだけで済ませている方も多いのではないでしょうか?片手一盛のタンパク質を意識してメニューに摂り入れましょう。
また、植物性のタンパク質(納豆や大豆、豆腐など)だけでは、含まれているタンパク質の量が少ないのと、必須アミノ酸が不足してしまうので、動物性のものも植物性のものもバランスよく摂ると良いでしょう。
● 動物性タンパク質・・・肉・魚・チーズ・牛乳・卵など(卵はタンパク質の量が少なめ)
● 植物性タンパク質・・・豆・納豆・豆腐・あげ・小麦(植物性のものはタンパク質の量が少なめ)
4-3.脂質と上手に付き合う
一昔前、コレステロールは悪者のように言われた時代がありました。多すぎると動脈硬化などのリスクが上がりますが、コレステロール自体は体にとって必要なもの。決して悪者ではありません。
コレステロールは、細胞の膜を守ったり、エストロゲンなどの女性ホルモンの原料になるので、コレステロールが少なすぎると良い卵胞が育たなくなります。
コレステロールは、菜食主義やスムージーばかりの生活など極端なことをせず、通常のお食事をしている限りは不足することはありません。
もう一歩前進するなら、その質を意識してみましょう。揚げ物などは糖化ストレス(前述)を増加させるため控えめに。お料理に使う油は、エゴマ油やアマニ油、ハイオレックタイプの紅花油、オリーブオイルなど良質な油を使うのがおすすめです。
(補足)トランス脂肪酸にご注意
トランス脂肪酸は質の悪い油や加工食品に多く含まれており、数々の研究で危険性が指摘されています。アメリカの研究では、排卵障害に繋がることが報告されています4) 。特に注意したいのはマーガリンとショートニングで、これらはトランス脂肪酸そのものです。バターの代わりにマーガリンを使ったりせず、また、マーガリンやショートニングが入っているパンやお菓子には特に気をつけましょう。
4-4.毎食1皿以上の野菜を食べる
食物繊維をたっぷり摂ると糖分の吸収を抑えられ、卵子や卵胞にダメージを与える糖化ストレス(前述)を減らすことができます。
また野菜に含まれているビタミンCやビタミンE、ビタミンAには抗酸化作用があり、卵と卵子のお話し①女性は一生分の卵子を持って生まれるでお話しした酸化ストレスから卵子や卵胞を守ることができます。また、きのこ類(野菜ではありませんが・・・)などに豊富に含まれるビタミンDは、卵胞の発育を促進し生存率を上げることが分かっています5) 。
厚生労働省の「健康日本21」より、1日に必要な野菜は350g、これは小皿5つ程の量になります。いきなり毎日5皿は難しくても、毎食必ず1皿は野菜を食べるところから始めてみましょう。
● 食物繊維が多い野菜(きのこ)・・・切干しだいこん、しそ、モロヘイヤ、ブロッコリー、大根、かぼちゃ、ほうれん草、インゲン豆、(しいたけ、きくらげ)など
● ビタミンCが多い野菜(果物)・・・赤ピーマン、黄ピーマン、さつまいも、いちご、(柿、キウイ)など
● ビタミンEが多い野菜・・・ほうれん草、にら、トマト、モロヘイヤ、かぼちゃ、しそ、赤ピーマンなど
● ビタミンAが多い野菜・・・しそ、モロヘイヤ、にんじん、春菊、ほうれん草、小松菜、かぼちゃなど
4-5.冷たいものや生もの、果物の食べ過ぎにご注意
卵胞は、卵巣内の毛細血管(細い血管)を通して栄養やホルモンを受け取って成長し、血管を通して老廃物を排出しています。血液の巡りが悪くなったらどうなるでしょう?卵胞は栄養が届かないため上手く成長できず、老廃物を排出できないため卵子と卵胞の質が悪くなります。
血流の悪化の大きな原因は“冷え”です。卵巣は周りをぐるっと腸で取り囲まれているため、胃腸が冷えると卵巣まで冷えてしまい、血流が悪くなります。
毎日のように冷たいものを飲んでいませんか?生ものやくだものも、食べ過ぎると胃腸を冷やします。毎日朝はスムージーやヨーグルトに果物を…というお話をよく聞きます。気づかない内に胃腸を冷やしている方が多いようです。ビタミン摂取に効果的なくだものも、1日に片手一盛ほどを目安に、食べ過ぎに気をつけましょう。
いかがでしたか?
今回は、卵子の老化をできる限り遅らせて、しっかりと成熟卵胞を育てる上で、お食事の中で特に気を付けていただきたい点についてお話ししました。
「私は大丈夫だった!」方は、既にあなたの妊活は一歩前進しています。ぜひ自信を持ってお続けくださいね。守れていない部分があった方は、何か1つからでもいいので意識してみましょう。1つでも意識を持って続けられたら、必ずあなたの妊活は一歩前進します。
次回は、今回お伝えできなかった残りのお話し、運動・ストレス・睡眠と卵子や卵胞の質についてお話しします。
(参考)
- 1) Qi Yao, Yuanjiao Liang, Yong Shao, Wenwen Bian, Haiyan Fu, Juanjuan Xu, Liucai Sui, Bing Yao, Meiling Li, “Advanced glycation end product concentrations in follicular fluid of women undergoing IVF/ICSI with a GnRH agonist protocol”, Reproductive BioMedicine Online, 2018,36(1), 20-25.
- 2) Masao Jinno, Masayoshi Takeuchi, Aiko Watanabe, Koji Teruya, Jun Hirohama, Noriko Eguchi, Aiko Miyazaki, “Advanced glycation end-products accumulation compromises embryonic development and achievement of pregnancy by assisted reproductive technology”, Human Reproduction, 2011, 26(3), 604-610.
- 3) https://consumer.healthday.com/obgyn-women-s-health-11/infertility-news-412/acog-nutritional-components-of-diet-impact-fertility-676050.html
- 4) Jorge E Chavarro, Janet W Rich-Edwards, Bernard A Rosner, and Walter C Willett, “Dietary fatty acid intakes and the risk of ovulatory infertility”,American Society for Nutrition, 2007, 85, 231-237.
- 5) Jing Xu, Maralee S Lawson, Fuhua Xu, Yongrui Du, Olena Y Tkachenko, Cecily V Bishop, Lucas Pejovic-Nezhat, David B Seifer, Jon D Hennebold, “Vitamin D3 Regulates Follicular Development and Intrafollicular Vitamin D Biosynthesis and Signaling in the Primate Ovary”, Frontiers in Physiology, 2018, 9, 1600.
卵子の“質”とは?食事と卵子の質の関係・卵子の老化を防ぎ、良い卵胞を育てるために大切なことについてご説明。|滋賀県長浜市にある漢方相談薬局。不妊症・子宝・腰痛・坐骨神経痛・生理痛・生理不順・自律神経失調症・こころのお悩みなど。JR木ノ本駅より徒歩5分、木之本ICより車で3分。