今年の桜は遅かったのに、散るのは思いのほか早かったような気がします
ニュースでは桜を見るために海外から多くの方が来られているとか…
これこそ「日本は、這入口から、桜かな /小林一茶」
意味違いますね…、すみません
ということで
今回は繰り返す慢性湿疹の男性のご紹介です
59歳男性
19才の時に初めて湿疹が出てから、何度も出たり治まったりを繰り返してきたという方
最初に湿疹が出たのは受験勉強のストレスからでした。
その後、治まることはあるのですが、仕事でストレスがかかるとは湿疹がひどくなります。
今は家族の介護が大変でそのストレスでひどくなったのかもかもしれないと来店されました。
腹部、背中全体がカサついた肌で、ひっかいた跡がいくつもあり、痒みが大変きついようです。
皮膚の色は浅黒く、血虚、血熱が見て取れます
いわゆる解毒証の方で、清熱、補血剤を中心に煎じ薬でお飲み頂き、
またストレス緩和のための漢方薬も併用しました。
2か月程でカサつきが大分改善され、ひっかき傷跡がほとんどなくなりました。
その後も順調に経過し、漢方薬は8か月でやめることが出来ましました。
(ボテジャコ掲載)
背中(初回来店時)
背中(6か月後)
ひじ内側関節
ひじ内側関節(一か月後)
この方の皮膚は写真の通り浅黒い肌で、漢方では地黄肌と言い、地黄剤の適する肌です。
地黄には乾地黄、熟地黄、生地黄がありますが、それぞれ少し働きが違います。
どれも潤で補血の効はありますが
熟地黄は補血の効に優れ、寒熱は微温
乾地黄は清熱作用があり、寒熱は寒
日本漢方の古方派では乾地黄を好み、後世派は熟地黄を好むと言われました。
メーカーの作る顆粒剤は多くは乾地黄が使われていますが、
煎じ薬だと使い分けができます。
この方も期間によって熟と乾を使い分けました。
体質的な証と症状の証が同じであるときは、見かけの症状は早く良くなっても、治療には長くかかる場合が多いです。
この方も湿疹自体は割と早く治まりましたが、漢方薬は8か月お飲み頂きました。
これでも短い方だと思います。
今後も様子をみながら、また服薬が必要になることもあるかもしれません。
でも、皮膚の漢方薬をやめてから7年後、別の症状のご相談でお越しになりましたが、皮膚は大丈夫とのこと。
漢方で治療すると、再発があまりないような、また再発するとしても再発までの期間が長いように感じます。
~~ここからはちょっと小難しい漢方薬のお話です~~
~解毒証について~
日本漢方の後世派の一つ、一貫堂では人の体質を3つに分けて、それぞれ基本となる漢方処方を使い分けます。
瘀血症(通導散)
臓毒症(防風通聖散)
解毒証(荊芥連翹湯、柴胡清肝湯、竜胆瀉肝湯)
この中の解毒証の基本となる薬方は
温清飲(四物湯+黄連解毒湯)に甘草柴胡連翹を加え、四物黄連解毒湯と名付けた処方がベースです。
私は一貫堂流派ではありませんが、疾患によって一貫堂漢方の考え方が非常に参考になる事もあります。
~温清飲について~
漢方処方の温清飲は1600年頃に編纂された万病回春が出典です
漢方処方としては割と新し目の処方なのですが(といっても400年前ですが…)
四物湯(当帰、芍薬、川芎、地黄)/太平恵民和剤局方(1100年頃)
黄連解毒湯(黄連、黄芩、山梔子、黄柏)/外台秘要(752年)
の二つの処方を合わせた処方です(合方)
もっとも、四物湯の生薬4味は金匱要略(200年頃)の芎帰膠艾湯を構成しています
その名の通り、温で血虚を補う四物湯 と 血熱を清熱する黄連解毒湯の合方です。
元々の万病回春では婦人病の生理不順や不正出血に対して出典されているのですが、
現在ではアトピーや慢性湿疹を始め皮膚病全般、口内炎、ベーチェット、高血圧、紫斑病、脳梗塞、神経症、更年期障害、月経異常など、とても多くの疾患に使うことが出来る漢方処方です
この温清飲の四物湯と黄連解毒湯の合方ですが
難経 第69難
「実すればその子を瀉し、虚すればその母を補う」
を両方ともにのっとった合方と解釈できます。
温清飲証は体質的に肝に問題があり
五行説で
肝が弱い=虚 「虚すればその母である腎を補う」⇒腎の補-四物湯
肝が強すぎる=実 「実すればその子である心を瀉す」⇒心の瀉-黄連解毒湯
これは腎と心で相剋の関係にある処方どうしの組合せとなります。
ただ、四物湯は地黄ととらえると腎ですが
当帰ととらえると補うのは肝になり、その場合の解釈は
虚した肝を四物湯が補う(正経を補う)ことになります
その場合は相生関係の組合せと言えます。
これがどうなのか個人的に疑問で、以前に糸練功で診てみました。
四物湯は腎に入るのか肝なのか…
結果は、私としてはどちらも言えるという…(あくまでも私としてはですが)
これは生薬の質の差による違いもあると思います
生薬には産地の違いによって質が大きく違うことがあります。
当帰は大和産、北海道産、中国産がありますし
地黄も乾燥や蒸し方による質の違いがあり、
本当は質の違う生薬をすべて仕入れて、それで糸練功でみてみると良いのでしょうが…
いずれにしても補の処方と瀉の処方の合方でここまでの効果があり、応用範囲も広い漢方処方は他にはあまりないと思います。
今回はお客様の慢性湿疹から、漢方のちょっと専門的な話になってしまいました…