いよいよ本格的な梅雨になりました。
うっとうしい日が続きますが、少し安心した感じもします。

今回はストレスからの不安、緊張、震え、不眠のご紹介です

46歳、男性

元来、生真面目でどんな事にも手を抜かず、普段から身体を酷使されることが多い方です。
コロナへの対処や仕事上の人間関係などから極度の不安感に襲われるようになりました。
緊張からの手のふるえや動悸、不眠と悪夢に悩まされ、食事もおいしく感じず、疲労感も強くなってしまいました。
冬に閉じこもっていた気が春になっても発散が始まらず、のびのびとできない肝気欝結の状態のようです。
漢方薬は肝の気の流れを良くし胃腸を整える薬方や、肝気の滞りによる気血不足を補い、精神を落ち着ける薬方等を選びました。服用後は不安緊張感も随分ましになり、睡眠も改善傾向で、元気が戻ってきました。
(ボテジャコ掲載)

~~ちょこっと漢方薬のお話「こころの漢方薬」~~

精神神経系に使う漢方薬に抑肝散があります。

薬味は 柴胡、釣藤鈎、当帰、川芎、白朮、茯苓、甘草

その名の通り、肝を抑えるという、肝気が亢ぶり、神経が興奮したとき、漢方の精神安定剤という感じでとても多く使用されています。
神経症、不眠症、歯ぎしり、チック、夜泣き、脳卒中後遺症、認知症、手の震え、パーキンソン氏病…
とても応用範囲の広い薬方です
薬味の働きとしては
ストレス等で肝気が亢進したものを柴胡、釣藤鈎が清熱鎮静し、肝気の亢進に伴い脾胃の水が上昇したものを白朮、茯苓がさばき、肝血の消耗を当帰、川芎が補い、筋肉の痙攣を甘草が緩めます

出典は保嬰撮要(ほえいさつよう)(1556年)という小児科の医書で薛鎧(せつがい)という名医の作と言われています。この書の嬰という字は嬰児の嬰で、新生児~3歳ぐらいまでの幼児の事を言いますので、嬰児を保養するための要点の書ということになります。また出典は薛鎧の子の薛己(せつし)が記した保嬰金鏡録(1550年)とも言われています。
保嬰金鏡録には
『肝経の虚熱、発搐或は発熱咬牙、或いは驚悸寒熱、或は木土に乗じて嘔吐、痰涎、腹膨少食、睡臥安からざるを治す、愚製 ~ 水煎、子母同服』とあります
肝経の虚熱で引きつけや発熱、歯を食いしばり、驚きやすく動悸がしたり、木土に乗じて(=肝脾の相克)唾や涎を嘔吐し、眠っても落ち着かないものを治す。私の作 ~ 煎じて母子ともに服用する
この通り、元々は小児のひきつけや夜泣き、いわゆる疳の虫に対しての薬方です。
母子同服と言い、子供もお母さんも飲むように指示されています。
また、抑肝散というと散剤(生薬を粉にしたもの)の言い方なのですが、原典では水煎とあり、煎じる湯液剤となっています。

加味方としては
芍薬を加え精神、筋肉を緩める働きを強めた抑肝散加芍薬
さらに黄連を加え不眠症に抑肝散加芍薬黄連
芍薬、厚朴を加え、ふるえ、振戦、パーキンソンに抑肝散加芍薬厚朴
陳皮、半夏を加え二陳湯(去生姜)の方意を加えた抑肝散加陳皮半夏
これは原典より有名で、エキス加された製剤は多くが抑肝散加陳皮半夏です
この抑肝散加陳皮半夏は江戸時代に国内で作られたのですが、製作者は不明です。
(日本国内で作られ出典がわからないものを指して本朝経験方と言います)
半夏陳皮が入ることで、胃内停水をさばく力が増すため、抑肝散より胃腸が弱く、若干虚証タイプと言えますが、
中国の大陸性気候に比べ、日本の湿気の高い気候により、加陳皮半夏の方が多く使われてきたのも尤もかもしれません。

また、抑肝散は興奮性が特徴ですが、抑肝散加陳皮半夏は興奮性で癇癪持ちに気鬱傾向がさらに加わる感じです。
抑肝散も四逆散と同じ、左脳型の血毒タイプの代表的な方剤になります。
浅田宗伯は勿誤薬室方函口訣で
此の方は四逆散の変方にて、凡て肝部に属し、筋脈強急するを治す。
四逆散は腹中任脈通り拘急して胸脇の下に衝く者を主とす。
此の方(抑肝散)は左腹拘急よりして四肢筋脈に攣急する者を主とす。~~~~
と四逆散との腹証の違いを述べています。
糸練功で診ると、四逆散は左右両方に芍薬の腹皮拘急の証がありますが、抑肝散は左腹直筋緊張、抑肝散加陳皮半夏は左腹直筋外側の腹部大動脈動悸を感じます。
四逆散と抑肝散は先に述べたように左脳優位型なので、どちらも理論的で、自己の意見が強いタイプなのですが、
内攻的な四逆散に対し、少し外攻的なのが抑肝散という感じがあります。
また抑肝散は心の小建中湯とも言われ、四逆散より優しい(≒弱い)タイプの感じがします
四逆散と抑肝散の性格的な違いは色々あるのですが、それはまた別の機会に…

ずっと以前のこと、漢方を一緒に習っていた同胞と
浅田宗伯の「抑肝散は四逆散の変方にて~~~」というのを、薬味は変方というほど似ていないのに、方意が変方であると言っていると教わった時、ものすごく感動した事を思い出します…