やっと秋らしくなりました
って、もうすぐ11月ですから旧暦では冬です…

今回は慢性の胃弱が原因で体調不良の70歳の女性のご紹介です

小児の頃から胃弱で、ストレスからの胃潰瘍で入院歴もあります。
何十年もの間、この胃弱から胃痛、胃もたれ、胃のつまりがあり、調子が悪い時はガスがでて、だるく、しんどくなってしまいます。
元々食は細く、少し食べ過ぎるだけですぐに体調を崩すとのこと。
10代からずっとという事なので、かれこれ60年近く胃腸が不調とおっしゃいます。
漢方薬で良くなるものなのかとご相談です。
胃腸の調子が悪い日を記入した紙をお持ちなのですが、それを見るとひと月のうち20日は調子を崩しておられます
性格的にも神経質で、見るからにアトニー体形の方でした。
この方には脾気虚を補う、薬味の少ない君火の方剤を選びました。
漢方薬を飲み始めたらどんどん良くなり、5か月後にはひと月のうち調子をくずす日が1日だけとなりました。
現在は1年以上になりますが、ほとんど調子が悪くなることなくお過ごしです。

 

~~ちょこっと漢方薬のお話~~

胃腸疾患に使う漢方薬に四君子湯があります

薬味は 人参、白朮、茯苓、甘草、(生姜、大棗)

生姜と大棗ですが、中国では甘草、生姜、大棗はどこの家庭にもあり、煎じ薬を作る際には家庭で加味して入れていた習慣があります。
四君子湯の薬方に人参、白朮、茯苓、甘草の4味だけ書かれている書物があるのはこのためだと言われています。

出典は太平恵民和剤局方(宋代1100年頃の処方集)ですが、明代に編纂された医林集要では、華佗の製方なりとしています。

気虚の代表的な基本処方で、方意は
脾胃の虚(食欲不振、胃腸虚弱、下痢…)、(アトニー体質)
気虚(疲労倦怠、無気力…)
血虚(貧血傾向、血色不良、口唇蒼白…)

人参湯(人参、白朮、乾姜、甘草)の乾姜を生姜に変え、茯苓、大棗を加味したもので、人参湯より寒証は弱くなります。

実際の臨床では四君子湯はこのまま単独で用いることは少なく、多くの加味方があります。
二陳湯を加えた 六君子湯(人参、白朮、茯苓、甘草、半夏、陳皮、生姜、大棗)が代表ですが
他に、四君子湯方意がベースとなっている処方は
帰脾湯、啓脾湯、喘四君子湯、半夏白朮天麻湯(去甘草)、清心蓮子飲(去白朮)
人参養栄湯、参苓白朮散、八珍湯、十全大補湯、等

浅田宗伯は
栄衛気虚、臓腑怯弱、心腹脹満、全く食を思わず、腸鳴、泄瀉、嘔吐、噦逆するを治す
則ち理中湯(人参湯)中の乾姜を去り茯苓を加う( 勿語薬室方函)
此方ハ気虚ヲ主トス。故ニ一切脾胃ノ元気虚ノ諸証ヲ見ス者此方ニ加減斟酌シテ療スベシ…( 勿語薬室方函口訣)
また
諸急痛、遺尿禁ぜざる者、之を主る。按ずるに此の方、何ぞ能く急病禁ぜざるに堪えんや、但し緩症或は相適するもの有らん(方読便覧)
と述べています。

福井楓亭編纂の方読弁解には四君子湯のところに
中風、半身不随ノ者、右ヲ病ハ気虚と云、左ヲ病ムハ血虚ト云。若此方ヲ用ヒハ主治に随フベシ
と右半身不随への応用を述べています

薬味の4味とも甘味で、脾胃を益し栄養や水分を正常に保つ働きが、公平中立である君子のような中和の徳があるというところから四君子湯と名付けられたと言われています。
四君子湯は太陰の補剤で、人参の質がとても大切になります。
先述の六君子湯は四君子湯に痰飲、胃内停水を去る基本方剤の二陳湯(半夏、陳皮、茯苓、甘草、生姜)を合したものです
陳久(古い物)の方が良い生薬、半夏、陳皮の二つの陳から名づけられています
四君子湯は純粋な太陰の方剤で君火ですが、六君子湯は若干陽証に傾き相火です

以前に師匠から、腕の良い漢方家は六君子湯を使わずに、四君子湯と二陳湯を量の加減をしてちゃんと使う…
と言われたことがあります


勿語薬室方函口訣/浅田宗伯より 四物湯もついでに…)