先日、山下湘南夢クリニックの朱丞華先生による講演「生殖遺伝と着床前診断」を拝聴しました。

講義では、

・生殖遺伝における課題
・遺伝と不妊治療の関わり
・NIPT(出生前診断)
・着床前遺伝学的検査(PGT)
・モザイク胚

など、近年の生殖医療で重要なテーマについて学ぶことができました。

また講義の後半では、生殖医療専門医の立場から見た「漢方との連携」についても興味深いお話がありました。

今回はまず、生殖遺伝と着床前診断について学んだ内容をご紹介し、漢方との連携については次回の記事で詳しくお伝えしたいと思います。

不妊治療の現場では、

・体外受精
・顕微授精
・流産や不育症
・出生前診断
・着床前遺伝学的検査(PGT)

など、遺伝と深く関わるテーマが数多くあります。

近年はNIPT(新型出生前診断)やPGTという言葉を耳にする機会も増えましたが、
正しく理解する機会は意外と少ないかもしれません。

今回の講義では、生殖医療における遺伝について、最新の考え方を含めて学ぶことができました。

遺伝という言葉の本来の意味

先生は、

「遺伝」という言葉は日本では少し暗いイメージで捉えられがちですが、本来は親から受け継ぐことだけでなく、多様性も含めた学問であると説明されていました。

また近年では、「変異」という言葉よりも、より中立的な意味を持つ「バリアント」という表現が使われることが増えているそうです。

不妊治療と染色体異常

不妊治療を受けるご夫婦の中には、染色体異常が関係している場合があります。

特に、

・無精子症
・高度乏精子症

の男性では、一般より高い頻度で染色体異常が見つかることが知られており、
染色体検査が推奨されています。

一方で、

「体外受精や顕微授精をしたから先天異常が増える」

というわけではないことも説明されていました。

ただし、不妊治療を必要とするご夫婦の中には、
もともと遺伝学的な背景を持つ方もおられるため、
その点を理解しておくことが大切です。

NIPT(出生前診断)について

NIPTは、母親の血液中に存在する胎児由来のDNA断片を調べる検査です。

主に、

・21トリソミー(ダウン症候群)
・18トリソミー
・13トリソミー

を対象としています。

ただしNIPTは「確定診断」ではなく、あくまでもスクリーニング検査です。

陽性の場合には、

・絨毛検査
・羊水検査

などによる確定診断が必要になります。

着床前遺伝学的検査(PGT)とは

近年、不妊治療の現場で注目されているのがPGT(着床前遺伝学的検査)です。

受精卵が胚盤胞まで発育した段階で、一部の細胞を採取し、染色体や遺伝子の状態を調べる検査です。

検査による胚への影響をできるだけ少なくするため、採取するのは将来赤ちゃんになる部分ではなく、胎盤になる部分の細胞です。

主な検査として、

・PGT-A(染色体数の異常を調べる)
・PGT-SR(染色体構造異常を調べる)
・PGT-M(単一遺伝子疾患を調べる)

があります。

なぜPGT-Aを行うのでしょうか?

受精卵は見た目が良好でも、染色体異常を持っていることがあります。

特に女性の年齢が上がるにつれて、染色体異常を持つ受精卵の割合は増加するとされています。

染色体異常を持つ受精卵は、

  • 着床しない
  • 流産になる
  • 妊娠が継続できない

などの原因になることがあります。

そのためPGT-Aでは、受精卵の染色体数を調べ、正常な染色体数を持つ受精卵(正倍数胚)を選択して移植することで、

  • 流産率の低下
  • 妊娠率の向上
  • 出生率の向上

が期待されています。

講義でも、反復流産、反復着床不全、高年齢不妊では、PGT-Aの有用性が示されていることが紹介されていました。

モザイク胚について

今回の講義で特に印象的だったのは「モザイク胚」のお話でした。

モザイク胚とは、

正常な細胞と異常な細胞が混在している胚のことです。

とても印象的だったのは、
人間の胚には異常細胞を減らし正常細胞を増やしていく
「レスキュー機構」があることがわかってきているという事です。

低頻度モザイク胚から正常なお子さんが誕生するケースも報告されています。

(この「レスキュー機構」には、東洋医学の補腎、補気、補血、と痰濁を取り除く考え方が
関係すると、私は思っております。)

結果の解釈が非常に難しく、遺伝カウンセリングが重要であることも強調されていました。

つまり、異常と診断されても、問題なく正常に胎児が生まれてくる可能性があるということに対して
どう考えていくかという事。

実際にはどうすることが正解か、悩むカップルも多いと思います。

年齢と正常胚の関係

朱先生の施設データで、

年齢とともに正常胚を獲得できる割合が低下することを示されていました。

特に40代半ば以降では正常胚の割合が大きく低下するため、

「妊娠を希望される場合は、できるだけ早めに行動することが大切」と
強調されていました。

 

まとめ

今回の講義を通して感じたのは、

不妊治療は単に卵子や精子、受精卵だけを見るのではなく、

遺伝医療、出生前診断、倫理、遺伝カウンセリングなど、様々な角度から考えながら、不妊で悩むご夫婦をサポートしていく必要のある医療だということでした。

近年は、着床前遺伝学的検査(PGT)やNIPTなどの検査が進歩し、不妊治療に取り組むご夫婦が大切な選択を求められる場面も増えています。

だからこそ、正しい知識を持ったうえで、ご夫婦それぞれが納得できる選択をしていただけるよう、お手伝いしていくことの大切さを改めて感じました。

実は今回の講義では、最後に「生殖医療と漢方の連携」についても興味深いお話がありました。

生殖医療専門医の立場から、

・なぜ漢方との連携が必要なのか
・卵子や精子の質についてどのように考えているのか
・実際にどのような形で漢方薬局と連携しているのか

など、日々の相談業務にも通じる内容が数多く紹介されていました。

次回は、その「生殖医療と漢方の連携」について、講師の先生のお話をご紹介したいと思います。

今日は雨が降る前に、コムラサキ式部と西洋人参木をすっきり剪定し、
庭の雑草とも格闘しておりました。

そしてここ数日で一気に咲き出したアスチルベ。
数年が経ち、今年はさらに元気で美しい花姿を見せてくれています。

花言葉は「自由」「気まま」。

その凛とした姿を眺めていると、心の縛りがそっと溶けていくような気がしました。