先日、こんなニュースを目にしました。
早期閉経患者への不妊治療に有効な薬剤発見 順天堂大など(Yahooニュース)
当店のお客さまにも早発閉経で悩んでいる方がいらっしゃるので、何か助けになるような情報は無いかと思い読んだところ、慢性腎臓病患者に使われる薬で、成熟した卵子を得ることができたと書かれていました。

はじめに思ったのは、やっぱり現代医学と中医学は繋がっているんだということ。
中医学では、生殖に関係する臓腑を「腎」と考え、早発閉経も含め、妊活相談では必ず「補腎(腎を養うこと)」を重視します。
慢性腎臓病の薬が、早発閉経に効くかもしれないというニュースは、中医学の「腎は生殖をつかさどる」の裏付けのように感じたのです。

でも、ニュースを読み進め、今回の主役である薬「フィネレノン」の作用機序なども調べるうちに、「腎」だけではない、もっと深い部分で非常に重要なニュースであることに気づきました。

重要な視点は卵巣の「線維化」

ニュースで話題となっている薬は、フィネレノン(非ステロイド性のミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)です。
フィネレノンは、腎臓・心血管領域で、線維化(組織が硬くなって機能が低下する変化)を抑えることが知られています。
今回は、このフィネレノンが卵巣の線維化も解除し、卵胞を活性化して、卵胞発育を回復させることが発見されたのです。

研究では、次のようなことが示されています。

  • 卵巣機能の低下に伴い、卵巣間質で「線維化」が進むことがある。
  • この間質の線維化は、原始卵胞の活性化(眠っている卵胞が動き出すこと)を抑制する可能性がある。
  • フィネレノンは、卵巣間質の線維化を解除し、原始卵胞の活性化および初期卵胞の発育を促進する可能性が示された。

重要なのは、フィネレノンは、腎臓を元気にする薬ではなく、「線維化」を解除する薬だということです。

現代医学の「線維化」と、中医学の「瘀血・痰」はつながっている

「線維化」という言葉は中医学にはありません。
中医学では、「癥瘕(ちょうか)」や「積聚(しゃくじゅ)」などの病態が、現代医学でいうところの「線維化」にあたります。

癥瘕や積聚は、本来は柔らかいはずの組織が、長期間の気血津液の滞りによって、硬く、役に立たない組織に置き換わってしまった状態で、
主に以下の2つが絡み合ってできたものと考えます。

  • 瘀血:血の巡りが悪くなり、古くなった血液やドロドロした血液が停滞したもの
  • 痰:水分代謝が異常となり、停滞した水が粘度を増し、固まったもの

つまり、線維化とは、この「瘀血」や「痰」が接着剤のように絡み合って組織にこびりつき、組織の柔軟性と機能を奪った状態、と整理することができます。

中医学の早発閉経に対する考え方

中医学で早発閉経を考えるとき、代表的な要因がいくつかあります。

腎虚(生殖をつかさどる「腎」が弱った状態)

早発閉経の最も根幹となる要因で、早発閉経を考えるときに、まず念頭におくべき因子です。
治療方針は、「補腎:腎を養う」です。

肝鬱気滞(ストレスで気が滞った状態)

現代女性に多い要因で、ストレスにより気の巡りが悪くなることで、血の巡りも滞った状態です。
治療方針は、「疏肝理気:内臓の働きをよくし気を巡らせる」や「養血調経:血を補い月経を整える」などです。

気滞血瘀(気の巡りが滞り、血の巡りも滞った状態)

なんらかが原因で気の巡りが滞ったことで、血の巡りも悪くなった状態です。
治療方針は、「活血化瘀:血の流れをよくし、つまりを取り除く」などです。

痰湿阻滞(余分な水や老廃物が溜まった状態)

水分代謝が悪化し、粘度の高い余分な水や老廃物が体内に溜まった状態です。
治療方針は、「化痰:水分代謝をよくして痰湿をさばく」や「活血通経:血の巡りをよくして月経を通す」などです。

実際の臨床では、いくつかのパターンが合わさって存在することの方が多いです。
特に、「腎虚」を土台にして「瘀血・痰」が合わさっているパターンが多く、治療方針として「補腎活血:腎を養い血の巡りをよくすること」が選ばれることが多いです。
(「腎」は温め動かす力をつかさどるため、腎が弱ると、血流や水分代謝が悪くなり、「瘀血・痰」の産生に繋がります)

現代医学と中医学をつなぐ視点 ― 今回の研究から見えること ―

ここまでで、

  • フィネレノンが卵巣の「線維化」を解除し、卵胞を活性化、発育促進すること
  • 「線維化」は、中医学的には「瘀血・痰」で表せること
  • 中医学では、早発閉経の要因として「瘀血・痰」などを考えること

などについてご説明してきました。
今回のニュースだけに限らず、科学的でないと言われることもある中医学の考え方が、不思議と現代医学の研究結果と繋がることがあります。
やっぱり、私たちが信じて日々研鑽を積んできたものは間違っていないと思う一方、中医学だけでなく、現代医学の知識も深めることで、今までの認識が多方面から補強され、漢方薬という選択肢をとる際の確信に繋がるのではないか、という考えもわきます。
だからこそ、生殖医学会や不妊カウンセリング学会にも参加しているのです。

今回のニュースをきっかけに、早発閉経の対応は、「補腎」だけでなく、「瘀血・痰」への対応も大切であることを改めて感じました。
これからも丁寧に体質を見極め、一人一人の状態に合わせて対応していこうと思います。

今回のフィネレノンに留まらず、今後の研究の発展が、早発閉経で悩む方の希望に繋がることを心から祈ります。

※本稿はニュースをきっかけにした中医学的整理であり、治療の断定や自己判断を勧めるものではありません。

【参考】
内服薬「フィネレノン」による早発閉経患者の新たな不妊治療法を開発 ― 原始卵胞や初期卵胞を活性化して卵胞発育を回復 ― (順天堂大学)
早期閉経患者への不妊治療に有効な薬剤発見 順天堂大など