年末年始は何とか雪が積もらなかったのですが、今回は少し積もりました。
今のところご来店にはさほどの影響はないレベルで済んでます
宅急便の集荷が午前中までにとのことで、送りの荷物は少し遅れる事もあるかもしれません。
遅くなりましたが、本年も何卒よろしくお願い申し上げます。
今回は全身の慢性湿疹の30歳台の男性のご紹介です
元々、小児アトピー性皮膚炎がありました。
学生の間に治ってから再発はしませんでした
1年半前から顔や頭、首、背中、腕、大腿など全身に湿疹が出始め、場所を変え次々とぶり返すと言われます。
強いステロイド軟膏やかゆみ止めの飲み薬を使用されていますが、軟膏を塗るとその場所は治るも、別のところに湿疹が出るという状態をずっと繰り返しています。
仕事がきつく、アトピー性皮膚炎が再発したのかもとの事。
この方には湿疹の出方から少陽の清熱解毒が必要と考え、二つの薬方をお飲み頂きました。
またリンパの流れに効果的なサプリメントも服用頂きました。
当初は効果が現れるのですが、季節の影響や仕事の具合によって一進一退の状況が続くこともありました。
服用2年以上と長くかかりましたが、ひどい湿疹は出なくなりかなり安定した状態が続いています。
(初回来店時 首)
(2年4か月後)
~~ちょこっと漢方薬のお話~~
皮膚病に使う漢方薬に黄連解毒湯があります
皮膚病には黄連解毒湯に四物湯を合方した運清飲の使用機会がとても多いのですが
柴胡剤との合方も良く使われます。
薬味は
黄連、黄芩、黄柏、山梔子 の4味
金匱要略の瀉心湯(=三黄瀉心湯/黄連、黄芩、大黄)より大黄を去り、山梔子、黄柏を加えたものです。
(瀉心湯:心氣不足吐血衂血瀉心湯主之 /金匱要略 驚悸吐衂下血胸満瘀血病)
出典は外台秘要(752年編纂)と言われていますが、それよりも先の肘後方(350年頃)に出典されています。
傷寒・金匱は200年頃で、黄連解毒湯は後世方の基本方剤の一つでもありますが、古方的な薬方です。
方意は
上焦の熱証(顔面紅潮、発熱、発赤、充血、心下痞)
上焦の熱証による精神症状(感情不安定、不眠…)
出血
応用は高血圧、脳卒中、不眠、神経症、出血、潰瘍、アフタ、皮膚炎、酒査鼻など
黄連・黄芩(瀉心湯はこちらを)、黄柏、山梔子とも苦寒の清熱剤ですが
黄連:中焦の清熱
黄芩:上焦の清熱
黄柏:下焦の清熱
山梔子:上焦、肝経の清熱
黄連解毒湯は4味とも糸練功による腹診で確認することが出来るため証がわかりやすい薬方です。
外台には
煩悶に苦しみ、乾嘔口燥、呻吟し臥するを得ざるを治す
勿誤薬室方函口訣/浅田宗伯には
此の方は胸中熱邪を清解するの聖剤なり
とあります
加味合方には
四物湯:温清飲 → 荊芥連翹湯、柴胡清肝湯
小柴胡湯:柴胡解毒湯 など
また
黄連解毒湯を末にしたものを黄解散と呼び散剤で使います
私たち漢方家は黄連+黄芩の方意を普段、瀉心湯と呼んでいますが
古典に収載の方名そのもので言うと、先述のように
金匱要略には瀉心湯(黄連、黄芩、大黄)、これを後世方では三黄瀉心湯と呼びます
傷寒論には大黄黄連瀉心湯(黄連、大黄)があり、これを林億(=北宋の漢方家、張仲景の傷寒雑病論を再編した、現代に伝わる宋版傷寒論の編者)は黄芩が脱落しているものとして、金匱の瀉心湯=傷寒論の大黄黄連瀉心湯としています。
湯本求真は皇漢医学で、外台秘要の大黄湯(大黄、黄連、黄柏、山梔子)の黄柏を黄芩に変え、大黄、黄連、黄芩、山梔子という処方で黄連解毒湯(及丸)と呼びました。
またこの処方から大黄を去し、黄柏を加えた本来の黄連解毒湯を第二黄連解毒湯(及丸)と呼び、
大黄の有無で実証に黄連解毒湯、虚証に第二黄連解毒湯と分けています
黄連解毒湯は黄連と山梔子の質が大切です、もちろん黄芩もですが…
黄連は断面が濃い橙黄色で鮮明なものが良品です
日本の黄連にはキクバオウレン、セリバオウレン、コセリバオウレンの3つの変種があります。
昔は加賀産、日光産などが良質と言われたのですが、現在では国産の黄連はほとんど流通しておらず、ほとんどが中国産です。
「心中の煩悸を主治するなり、旁ら心下痞、吐下、腹中痛を治す」(薬徴/吉益東堂)
「苦寒、心に入り火を瀉し、肝を鎮め、血を涼し、湿熱を清し、鬱を散ず」(訂補薬性提要)
黄連は君火ですが、量を増やすと相火的な働きになります
使用量が少ない程、瀉の働きがシャープになる数少ない生薬です
私は10年以上昔になりますが、「慢性湿疹に対する黄連剤の使用例」で論文発表をしました。
また昨年11月には「脳内熱証反応の応用」と題し論文発表をしましたが、基本的にこれは黄連関連の反応です。
山梔子はくちなしの実ですが、丸みを帯びたものと横長のもの(=水山子)があります
水梔子は染料として使い、おせち料理の栗きんとんの色付けによく使われます
漢方では丸身を帯びた山梔子を使うのが大切で、煎じ薬の場合は吟味出来るのですが、日本の製薬メーカーのエキス製剤はほとんど横長の水梔子が使われているのはとても残念な事です。
この山梔子の目利きに関してはあまり知られていないのかもしれませんが、「和漢薬の良否鑑別法及び調整方/一色直太郎 著」には
…赤黄色の圓いものが上品であります。それよりも大きくて細長い黄色のものは…次品であります
と記載されています
本来の丸みを帯びた山梔子は心包に入りますが、横長の山梔子(=水梔子)は三焦に入ります
心包の色体は赤、三焦の色体は青なのですが、山梔子の長期服用による副作用の腸間膜静脈硬化症では腸管が青く染まることも、横長の山梔子(=水梔子)使用と何か関係があるのかも知れません。
「心煩を主治するなり、旁ら発黄を治す」(薬徴/吉益東堂)
「苦、寒、三焦の鬱火を瀉し、心痛、吐鼻血を治す」(訂補薬性提要)
福井県勝山の山奥、平家平では黄連が群生しています
最近は行ってないので状況がわからないのですが、
まあ、驚くばかりの黄連の絨毯が見られます
(黄連の絨毯 福井県大野市平家平)
(セリバオウレンとキクバオウレン 平家平にて)