スイッチを入れかえたような秋の到来ですね
外は半袖では肌寒いぐらいなのですが、お店では白衣を着るのでまだ半袖です
今回はくりかえす慢性湿疹の50歳の女性のご紹介です
3年前からあごから首~胸にかけて湿疹が出来てとても痒いとのご相談です
首すじから胸まで赤くなり、その中にいくつも赤いプツプツとした米粒~小豆大ぐらいの発疹がいくつもできています。
ステロイド軟膏を塗ると少し治まるが、結局はくり返してでます。
今まで漢方薬も飲まれたようですが治らないとの事。
湿疹の赤さや部位、体質等から、少陽胆系の異常で燥湿中間的な実証と判断し漢方薬をお飲み頂きました。
食養生の補助として葉緑素、牡蠣殻のサプリもお飲み頂きました。
経過はとても良く2か月程度で首~胸の湿疹はほとんど治まりました。
しかし見かけ上は良くなってもまだ経気的には異常が残っているため、それから3か月間漢方薬はお飲み頂きやめることが出来ました。
(ボテジャコ掲載)(再)
(初回来店時 首)
(4か月後)
~~ちょこっと漢方薬のお話~~
皮膚病に使う漢方薬に小柴胡湯があります
というか、小柴胡湯は皮膚病にも使うと言った方がいいですけど…
薬味は
柴胡、黄芩、人参、半夏、大棗、生姜、甘草
方意をみると
柴胡+黄芩:胸脇の清熱、消炎
半夏+生姜:胃内停水
黄芩+人参:脾胃の熱
柴胡+半夏:肺の熱証
少陽病、柴胡剤の基本となる薬方です
出典は傷寒論、金匱要略
条文も多くありますが、代表的な傷寒論の条文
傷寒五六日中風往来寒熱胸脇苦満黙黙不欲飲食心煩喜嘔
或胸中煩而不嘔或渇或腹中痛或脇下痞鞭或心下悸小便不利或不渇身有微熱或欬者與小柴胡湯主之 (太陽病中編)
(傷寒にかかり5,6日経ち、往来寒熱を起こし、胸脇が詰まったように苦しく憂鬱で飲食を欲せず、胸苦しくなりたびたび吐くようになる、これは小柴胡湯の主治である。
ところが胸の中が苦しく吐気はない事、口喝のある事、腹が痛む事、脇下が痞えて堅くる事、心下に動悸がして小便の出が悪い事、口喝がなく身に少し熱がある事、咳の出る事などもあり、これらの証は小柴胡湯の主治である。)
心煩喜嘔までの最初の条文は少陽病の正証と言われる証です
小柴胡湯は応用が広く急性病にも慢性病にも用いることが出来ますが、
急性病にではこの条文のように、
傷寒に犯され太陽病から少陽病に病位が進むと
往来寒熱、脇胸苦満、食欲不振、口苦、口粘、目眩、嘔吐、白苔 等の症状がでることがあり
いわゆる漢方で言う半表半裏の邪を和解する薬方です
(半表半裏について半表半裏という病邪の位置というとらえ方もありますが、病邪により表にも裏にも症状があるというとらえ方もあります)
漢方の治法には汗、吐、下、和という4法があります。
汗を出す、吐かせる、下すことにより病邪を駆逐しますが、少陽病はこの3つの治法を用いてはならず、和解するという方法を取ります。
小柴胡湯はこのため別名、三禁湯とも呼ばれます。
方意から、少陽病位の虚実の中間~やや実証に対し、小柴胡湯は慢性病にも広く応用できます。
感冒、気管支炎、肺炎、副鼻腔炎、皮膚炎、乳腺炎、リンパ腺炎、胃炎、潰瘍、肝炎、胆石、膵炎、胆嚢炎、腎炎…
合方も多くあり、薬方名をつけて呼ばれるものがあります。
小柴胡湯+
桂枝湯(柴胡桂枝湯)
半夏厚朴湯(柴朴湯)
五苓散(柴苓湯)
小陥胸湯(柴陥湯)
香蘇散(柴蘇飲)
黄連解毒湯(柴胡解毒湯)
四物湯(柴胡四物湯)
など
薬味の加味方も多く、傷寒論の原典にも述べられています。
先般のコロナ禍の時に取り上げられた浅田宗伯の柴葛解肌湯は
小柴胡湯+葛根湯+石膏 去人参、大棗の薬方で 太陽、少陽、陽明の三陽の合病に対する薬方といえます
今一度、薬味をみると
小柴胡湯 :柴胡、黄芩、人参、半夏、生姜、大棗、甘草
半夏瀉心湯:黄連、黄芩、人参、半夏、乾姜、大棗、甘草
黄連湯 :黄連、桂枝、人参、半夏、乾姜、大棗、甘草
柴胡+黄芩、黄連+黄芩、人参+黄芩
黄連+桂枝、黄連+乾姜、乾姜+甘草
生姜+大棗+甘草
など、古方処方の方意が薬味の組合せから成立っていることが理解できます
漢方薬は自然の生薬が原料なので生薬の質が非常に大切です。
効果が左右されたり、いわゆる副作用的な事も起こることがあります
特に小柴胡湯では柴胡、黄芩、人参は生薬の質が大切です
柴胡は日本産の野生5~6年根が最良品ですが、現在は野生はほとんどなく流通しているのは栽培の2年根や三島株の中国栽培品などです
黄芩は副作用の面から質が大事で、野生品で根の先のとがった部分が良品です。
煎じ薬では生薬の質にこだわることが出来ますが、製薬メーカーの作る顆粒剤はこちらが生薬の質を吟味することはできないので、製薬メーカーに期待する事の一つです。
人参も質の良し悪しが幅広い生薬ですが、薬効的に質を使い分けます。
白人参は補気作用に優れるため、慢性病の体質改善的に小柴胡湯を用いる場合に使います
竹節人参は清熱消炎作用があり、急性病の熱証や炎症性疾患での小柴胡湯はこちらを使いますが、昨今、竹節人参は市場からなくなってしまいました。ほとんど和産しかなかったのですが、日本では採算性も合わないのでしょうが、とても残念なことです。
以前、肝臓病に小柴胡湯が乱用されて副作用が大きく取沙汰されたことがあります
小柴胡湯等の柴胡剤を肝臓病等に用いる場合、正経による治療なので、肝が実している時が対象になります。
肝が虚して来た場合は、肝を瀉する柴胡剤は使えません。
この場合は脾を補う建中湯や人参湯などの薬方が必要です
金匱要略臓腑経絡先後病脈証第一(難経77難)に
「夫れ未病を治す者は、肝の病を見て脾に伝うるを知り、当に脾を実すべし」の応用です
また、難経69難に「虚する者にはその母を補う」とあり、腎の四物湯から八珍湯、十全大補湯も候補です
(八珍湯や十全大補湯は以前に書いた通り、脾の補が本です)
小柴胡湯を書くとキリがないですので、この辺で…
(傷寒論 辨少陽病脈証併治第九 より)