漢方の勉強会で毎月1回は新大阪に行きます
勉強会の後はお決まりの懇親会
勉強会だけでは足りなかった話をして盛り上がります
米原に止る最終のこだまに乗ると、北陸線の最終にも間に合うため、基本はこれです
それが、先日最終の新幹線に乗って、酔いと疲れからほんの少し居眠り…
ふっと気が付いて窓を見れば、新神戸の文字…
逆やん!!
なんとかびわこ線の最終で米原まで帰ってきました

ということで今回は血小板減少性紫斑病の方のご紹介です

68歳女性

元々漢方がお好きな方で、以前に高血圧のご相談で漢方をお飲み頂き改善していました。
病院の血液検査で血小板が正常の1/3以下と言われ、血小板減少性紫斑病の診断を受け、
病院では様子をみるしかないと言われ、当店に来店
(血小板数3.4万/μℓ)

煎じ薬を飲み始め、半年後も血小板数は変化ありませんでした
(血小板数3.5万/μℓ)
9か月後にピロリ菌陽性のため、除菌治療をされました
それから5か月後も血小板数は変化ありません
(血小板数3.2万/μℓ)
その後煎じ薬を変更するも3か月変化なく
もう一度煎じ薬を変更したところ、一か月で急速に血小板数が改善
(血小板数14万/μℓ)
3か月後、病院からももう大丈夫と言われました
(血小板数16,5万μℓ)

*特発性血小板減少性紫斑病(Idiopathic thrombocytopenic purpuraITP)とは

血小板が減少する他の明らかな病気や薬剤の服用がなく、血小板が減少し出血しやすくなる病気で難病指定されています。
急性:6か月以内に改善、小児に多い
慢性:6か月以上持続する、成人に多く2040代の女性に多く、6080代も多い

血小板:正常値15万~40万個/µl
10万以下で血小板減少性紫斑病が疑われる

血小板が3万以下になると出血のリスクが高まり、程度に応じて治療適応になります。
3万以上であれば経過観察となるようです

原因:血小板に対する自己抗体ができて、脾臓で血小板が破壊される。
自己抗体ができる原因は未だにわかっていません

症状
・点状や斑状の皮膚にみられる出血
・歯茎からの出血、口腔粘膜出血
・鼻血
・便に血が混じって、黒い便が出る
・尿に血が混じって、紅茶のような色になる
・月経過多、生理が止まりにくい
・重症な場合は、脳出血
(しかしどの症状も紫斑病に特異的なものではありません)

西洋医学的治療法
・ピロリ菌陽性の場合は除菌する(半数以上に血小板の上昇がみられるとのデータがあります)
・ステロイド剤
・脾臓摘出
・血小板増加薬
・免疫抑制剤、ガンマグロブリン等
などの治療法があります

慢性の血小板減少性紫斑病の漢方治療には
自己免疫からの血小板減少による出血傾向ということを考慮すると
脾気虚、血虚は基本にあり、病意は少陽の虚~太陰の方剤で
薬方は帰脾湯、黒帰脾湯(帰脾湯+地黄)、加味帰脾湯(帰脾湯+柴胡、山梔子)
八珍湯(四物湯+四君子湯)、十全大補湯(八珍湯+桂皮、黄耆)
当帰建中湯、帰耆建中湯
柴胡桂枝湯、補中益気湯…
等が候補になると思います。

68歳のこの方は、当初青あざがよくできると言われましたが、血小板数が3万/μℓ以上だったので、病院でも経過観察となったのだと思います。
最初はなかなか改善が見られず、ピロリ菌除去をされても効果が出なかったのですが
結局は基本通り脾虚の四君子湯、血虚の四物湯を基本とした煎じ薬で急速に改善することが出来ました

~ここからはまたちょっと小難しい漢方の話~

血虚の四物湯(地黄、当帰、川芎、芍薬)
脾虚の四君子湯(人参、白朮、茯苓、甘草)
の合方は八珍湯で、それに桂皮、黄耆を加味すると十全大補湯になります。
帰脾湯は四君子湯+黄耆、当帰、酸棗仁、竜眼肉、遠志、木香、生姜、大棗
黒帰脾湯はこれに地黄を加えます。(地黄が黒いから名前が付いた)

ということは薬味的には
十全大補湯:人参、白朮、茯苓、甘草、地黄、当帰、川芎、芍薬、黄耆、桂皮
黒帰脾湯 :人参、白朮、茯苓、甘草、地黄、当帰、酸棗仁、竜眼肉、黄耆、遠志、木香、生姜、大棗

で、二方とも四君子湯+地黄、当帰、黄耆は共通しており、脾虚+血虚の基本は押さえています。
しかし黒帰脾湯で効果がなく、十全大補湯で効果が出る例がありました(地黄は熟)
方意から違いを考えると、四君子湯は両処方同じですが
黒帰脾湯は血虚に対して地黄、当帰、(竜眼肉)
十全大補湯は血虚に対して四物湯=地黄、当帰、川芎、芍薬
四物湯は当帰、地黄が君と臣薬で、芍薬、川芎は佐使になりますが
その芍薬川芎がキーポイントになったのか…
色んな面から考えても確実に納得できる解釈が難しい…

吉益東洞が薬徴で
「仲景の方中、当帰・芎窮(=川芎)を用ふるもの、その主治するところ的知すべからず
今敢えて鑿せず。成方に従って用ふ。これ闕如の義なり」
四物湯は張仲景の方ではありませんが、当帰、川芎についてこう述べています

ところで、四物湯+四君子湯の八珍湯(黄耆桂皮加味で十全大補湯)の方意は
簡単に言うと血虚(四物湯)、気虚(四君子湯)で気血両虚と言えるのですが
八珍湯、十全大補湯は脾に配当されることを考えると、本治は四物湯証でなく四君子湯証と考えられ、脾気虚から血虚になったと解釈できます。
ということから、
金匱要略 臓腑経絡先後病脈証第一 で述べられている 虚すれば相克を補う(賊邪に対する治療)
にのっとった薬方と解釈できます
脾気虚=四君子湯
相克である腎を補う=四物湯

地黄剤の一つの特徴は地黄肌と呼ぶ浅黒肌ですが、八珍湯や十全大補湯は浅黒肌は気にする必要はありません。

前回の慢性湿疹の改善例から、小難しい漢方の話が続いてしまいました…