天気予報では週末に寒波到来とのこと
スタッフの会話は「もうスノータイヤに替えた?」
私も焦って替えました
これから4~5か月は冬バージョンです
えらく短い紅葉シーズンだったような…
今回は慢性胃炎でお悩みの50台女性のご紹介です
以前より胃部不快感があり、胃カメラをしてピロリ菌を除去されました。
除菌後はしばらく調子が良かったのですが、3か月後くらいから調子が悪くなってきました。
胃液が上り胸が苦しく、水分がはけて行かない感じがすると言われます
内科で胃酸を抑える薬をもらったが、少しだけましになるかという程度です。
食欲はあるが食べると気持ち悪くなります。
口が苦くゲップも出ます。
漢方薬でもう少し楽にならないものかとご相談です。
この方には心下の清熱と心下の水毒をさばく薬方を選びました
服用後ひと月程度で症状はマシになってきましたが、お腹が空いてくると調子が良くない感じが残ります。
漢方薬はそのまま続けて頂き、4か月後には空腹時でも大丈夫で、肉食などでも特に調子が悪くなりません。
その後は調子が崩れないように、時々漢方を飲む程度で過ごせています。
~~ちょこっと漢方薬のお話~~
胃腸の漢方薬に半夏瀉心湯があります
薬味は
黄連、黄芩、半夏、人参、乾姜、大棗、甘草
方意は
黄連は心下(脾)の清熱、黄芩は心下(胃)の清熱に働き、黄連+黄芩で瀉心湯(心下の邪を瀉す)です
半夏+乾姜(生姜)+人参で心下の水毒(胃内停水)をさばきます
悪心、嘔吐、下痢、食欲不振、逆流性食道炎、胃炎、口内炎、神経症、不眠症、統合失調症などに応用します
半夏瀉心湯は小柴胡湯の柴胡、生姜を黄連、乾姜に変えた薬方です
瀉心湯の基本:黄連黄芩、柴胡剤の基本:柴胡黄芩
心下痞硬はどちらもありますが、瀉心湯には胸脇苦満がありません
これは糸練功による腹診でも良くわかり、心下痞の人参証(陰)は両薬方にありますが、黄連証(陽)は小柴胡湯にはない事でも鑑別できます。
しかし実際の臨床では柴胡湯証と瀉心湯証を呈す場合も良く見られます
(小柴胡湯加黄連、黄連解毒湯合大柴胡湯…)
出典は傷寒論、金匱要略
嘔而腸鳴り心下痞する者は半夏瀉心湯之を主る(金匱要略)
傷寒論には傷寒の病で小柴胡湯から結胸を起こすもの(大陥胸湯の主治)と半夏瀉心湯の違いが述べられています。
加味方には
半夏瀉心湯証でやや虚証、水毒が強くなると茯苓を加味し
水毒がより強くなると六君子湯を合します
また長倉音蔵の創薬である半瀉六君子湯(半夏瀉心湯合六君子湯去大棗加牡蛎)もあります
半夏瀉心湯に甘草を増量すると甘草瀉心湯で、半夏瀉心湯証でより激しい下痢や神経症に用います
半夏瀉心湯から乾姜を減じ、生姜を加えると生姜瀉心湯で胸やけやゲップが強い時、逆流性食道炎に用います
半夏瀉心湯の下痢は基本的には陽の下痢症に用い、下痢するとサッパリする場合が多いのですが、
薬味的にみると陰の下痢症に用いる人参湯(人参、乾姜、甘草、白朮)去白朮 の方意も含まれることになります。
当店の竹内太紀先生が、今年の伝統漢方研究会全国大会で
「習慣性、難治性の下痢や嘔吐に対する半夏瀉心湯」という論文発表をしました。
その中に難治性の下痢症で、半夏瀉心湯証に附子の証がある症例を発表したのですが
千金要方では半夏瀉心湯に附子が加味されており、
浅田宗伯は勿誤薬室方函口訣で「『千金翼』ニ附子ヲ加フルモノハ、即チ附子瀉心湯ノ意ニテ~」とあり、半夏瀉心湯加附子は、
附子瀉心湯/傷寒論(大黄、黄芩、黄連、附子)の方意に近いと解説されています。
瀉心湯の方意を含む古方処方(傷寒・金匱の薬方)は
瀉心湯(=三黄瀉心湯)(黄連、黄芩、大黄)
大黄黄連瀉心湯(大黄、黄連)(黄芩の有無は書物による、加黄芩=瀉心湯)
附子瀉心湯(黄連、黄芩、大黄、附子)
葛根黄連黄芩湯(葛根、黄連、黄芩)
乾姜黄連黄芩人参湯(乾姜、黄連、黄芩、人参)
黄連阿膠湯(黄連、黄芩、芍薬、阿膠、鶏子黄)
と
半夏瀉心湯、甘草瀉心湯、生姜瀉心湯 の3方
があり、
後世方の薬方には
黄連解毒湯(黄連、黄芩、山梔子、黄柏)
温清飲、荊芥連翹湯、柴胡清肝湯
当帰六黄湯
女神散
などがあります。
(傷寒論 辨太陽病脈証併治下第七 より)