毎年この時期は学校薬剤師をしている小学校へ空気と照度の検査です
しばらく暖かい日が続いていましたが
いざ検査の日、朝から雪が…
学校の先生にも「先生が来る日は雪が降りますね~」
って…
さすがに昨年みたいなことは無かったのですが
真冬に逆戻りです
今回は耳鳴りの68歳の男性のご紹介です
昼間はあまり気にならないが、夜に廻りが静かになると耳鳴りがすると言われます。
耳は両耳とも、セミが鳴くようなジーという音で、とても気になります。
鳴り始めてからひと月ほどでお越しになりました
他の症状としてはほとんどなく、多少の夜間尿があります。
体を使う仕事もしておられ、年齢からしてもお元気な方でしたが
糸練功で診ると腎虚の証が見受けられ、漢方薬を選びました。
耳鳴りが気になってからは早くお越し頂いたのが良かったのか、
漢方薬を飲みだしてからの効果が早く、ひと月目で大分良いとの事。
3か月を過ぎる頃にはほとんど気にならなくなり、5か月目で漢方薬をやめることができました。
~~ちょこっと漢方薬のお話~~
耳鳴りに使う漢方薬に六味地黄丸(六味丸)があります
薬味は
地黄、山茱萸、山薬、茯苓、牡丹皮、澤瀉 の6味
方意は 腎陰虚
応用は 排尿困難(尿量減少、多尿)浮腫、腰痛、湿疹、夜尿症、糖尿病、腎炎、耳鳴、高血圧、疲労、老化…
腎虚の薬方の基本方剤で
+桂枝、附子:八味地黄丸 、八味地黄丸+牛膝、車前子:牛車腎気丸
+枸杞子、菊花:杞菊地黄丸
+知母、黄柏:知柏地黄丸
+麦門冬、五味子:麦味地黄丸
+柴胡、磁石:耳鳴丸
など六味地黄丸の加味方の薬方が多くあります
六味地黄丸をベースとするとわかりやすいので加味方としましたが、年代的に言うと本来は金匱要略の八味地黄丸から桂枝、附子を虚したものです。
漢方を習い始めの頃に腎陽虚に八味地黄丸、腎陰虚に六味地黄丸 と教わります
出典は小児薬証直訣という1119年、宋の時代の小児科専門書です
治腎怯失音、囟開不合、神不足、目中白睛多、面色光白等方
(腎虚による失語、泉門-小児頭蓋骨内の境目-の閉鎖不全、気力不足、眼中の白目が多い、顔色が白い等を治す)
と小児の発育不全の薬方として記載されています
医方集解という1682年の清代の書には
治肝心不足、真陰虧損、精血枯竭、憔悴羸弱、腰痛足酸、自汗盗汗、水泛為痰、発熱咳嗽、頭暈目眩、耳鳴耳聾、遺精血便、消渇淋癧、失血失音、舌燥喉痛、虚火牙痛、足跟作痛、下部瘡痬等証
(肝心不足、陰の消耗、精血の枯渇、痩せ衰え、足腰の痛とだるさ、多汗寝汗、慢性浮腫、発熱咳嗽、めまい、耳鳴難聴、遺精、血便、口喝多飲で排尿障害、血の消耗、失語、舌燥喉痛、ほてり、歯痛、踵の痛み、下半身の皮膚炎等を治す)
と六味地黄丸の応用についてほぼ記載されています
君薬である地黄についてはこちらの滋賀夕刊記事をどうぞ、またこちらも…
六味丸をいわゆる腎虚に使う場合は熟地黄、糖尿などには乾地黄が良いです
地黄丸の腹証は臍下の力が無い少腹不仁ですが
糸練功で診るとドーナツ型の腹証が良くわかります
また地黄の腹証である任脈上の臍上1寸、水分穴の動悸 もとてもわかりやすく、
和田東郭は蕉窓方意解の四物湯の候で水分穴動悸について述べ、
浅田宗伯は勿誤薬室方函口訣の四物湯の候で、その東郭の記述を引用し、
「東郭の説に、任脈動悸を発し、水分穴にあたりて動築最も劇しき者は肝虚の証に疑いなし、肝虚すれば腎も倶に虚し、男女に限らず此処の動築劇しくなる者なり。是即ち地黄を用ゆる標的とす。世医多く此の標的を知らず、妄りに地黄を用ゆ、故に効を得ずと。亦以って此の方の要訣とすべし」
と述べています
この水分穴動悸は四物湯や地黄丸等の地黄剤を選ぶ場合のとても有用な指標になっています
もちろん炙甘草湯もこの反応はあります…
(蕉窓方意解/和田東郭より)