帯状疱疹後神経痛の予防

83歳 男性
ずっと以前から当店の漢方薬をお飲み頂いてる方です。
帯状疱疹になったとご家族の方から連絡を頂きました。
病医院では抗ウイルス薬を出してもらい飲んでいるが、痛みがきつく腕も上がらないため漢方薬も欲しいとのことでした。
ご高齢なため帯状疱疹後神経痛が残らないよう、何とか帯状疱疹をしっかり治してしまう事が大事です。
遠隔で診て、漢方薬を選び飲み始めてもらいました。
それから徐々に痛みも引いていき、結局一か月半の服用で痛みはなくなりました。
今後、帯状疱疹後神経痛が発症しないか見守る必要はありますが、まずは痛みがなくなり良かったです。 

実は帯状疱疹は私も55歳の時に発症してしまいました。
私は気胸持ちで、その年の夏の終わりに自然気胸を起こし、入院手術をしました(20歳代の時も一度手術しています)
手術そのものは胸腔鏡手術で3日間入院、あとは自宅療養で1週間ほど相談を休ませてもらい、復帰していました。
2週間後抜糸し、術後経過も問題なく治療は終了~のはずだったのですが、その後1週間しても皮膚の痛みが消えません。
手術痕は当然残っているのですが、なんかおかしい感じがする…
しばらくすると手術痕以外にプツ、プツっと数か所…
あれ、これ帯状疱疹じゃない?
で、病院の皮膚科で診断してもらい、抗ウイルス薬をもらって飲みました。
帯状疱疹に気づいたのが遅く、帯状疱疹後神経痛が残るのが心配です。
そこから漢方の煎じ薬を服用し、最初は痛みとピりつきが取れませんでしたが、2か月程飲んで無事神経痛も治癒することができました。

   ~帯状疱疹について~

帯状疱疹は、子供の頃にかかった水ぼうそう(水痘)のウイルスの再活性化によって発症する皮膚の疾患です。
水ぼうそうが治った後もウイルスは脊髄から出る神経節に不活化ウイルスとして潜んでいます。ウイルスの活動は免疫力によって抑えられているのですが、ストレスや加齢、病後などによって免疫力が落ちてくるとウイルスが再び活動を始め、神経に沿って皮膚表面に移動し、帯状疱疹を発症します。

日本人の成人の約9割はこの帯状疱疹ウイルスを持っていると言われ、水ぼうそうにかかった記憶がない人もいます。
発症する7割の方は50歳以上で、80歳までには3人に1人は発症すると言われています

 帯状疱疹の症状
・軽度では皮膚の違和感やかゆみ
・ピリピリ、ズキズキ、チクチクといったい痛みを伴う水泡をもった赤い発疹が左右どちらかに神経に沿って帯状にできます。

出来やすい場所は
・肋間神経(胸、背中)
・三叉神経(顔)
・腰
・首
・うで
・その他
痛みは段々ひどくなることが多く、3~4週間ぐらい続きます。

帯状疱疹の治療
・抗ウイルス薬(内服、点滴)
・痛み止め

帯状疱疹が発症したら、基本的には抗ウイルス薬を1週間服用します。
皮膚の症状も痛みも1か月程度で治癒する場合が多いのですが、痛みに関しては1か月後でも治らず、そこから2か月、3か月と痛みが続くことがあり、これを帯状疱疹後神経痛と言います

   ~帯状疱疹後神経痛(PHN)について~

帯状疱疹後神経痛は帯状疱疹の発症後、ウイルスによって神経が傷つけられてしまい痛みが長く続くことが多い神経痛です。
帯状疱疹の520%の方に神経痛が残るというデータがあり、6065歳で20%、80歳以上の方では30%の方が発症すると言われ、高齢になるほど神経痛が残る確率が高くなります。

痛みの症状は
・ヒリヒリ、ズキズキ、チカチカ
・焼けるような痛み
・刺すような痛み
・電気が走るような痛み
・触れるだけで痛みを感じる事もあります

帯状疱疹後神経痛の治療
・薬物療法
・神経ブロック療法

   ~帯状疱疹関連痛の漢方薬について~

帯状疱疹については、太陽病位の薬方に痛みに対しての朮・附子を加味した処方を使うことが多いです。また状態によって血熱に対する薬方を使う事もあります。

帯状疱疹後神経痛になると、太陽病位(加附子)の薬方だけでは治らないことが多く、駆瘀血の薬方を使うことによって改善する場合が多いです。瘀血剤については陰の薬方が多いように思いますが、陳旧の瘀血薬が必要な場合もあります。
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~ちょこっと漢方のお話~

帯状疱疹の痛み(神経痛)に関して頻用される漢方処方の一つに桂枝加朮附湯(または桂枝加苓朮附湯)があります
これは「傷寒論」の桂枝加附子湯 に 朮(=白朮あるいは蒼朮)を加えた方剤で
江戸時代中期の日本の古方家、吉益東洞の創方で、著書「方機」が出典です
(桂枝湯と朮附湯の合方でもあります)

桂枝加附子湯は桂枝湯に附子を加味した処方で
傷寒論の条文では、汗が出過ぎた(出させ過ぎた)ために脱汗を起こし、小便が出にくく、手足が引きつり屈伸が出来なくなったものとあり、四肢の痛み、麻痺、脱汗などに使用できますが、実際にはあまり臨床で使う機会は多くはありません。
これに朮を加えることにより、痛みに対しての効果が高まり虚証の神経痛、関節痛、リウマチなど痛みの疾患に広く用いられるようになりました。

桂枝湯(桂枝、芍薬、生姜、大棗、甘草)+附子=桂枝加附子湯
これに朮を加味して 桂枝加朮附湯
さらに茯苓を加えると 桂枝加苓朮附湯

桂枝湯は傷寒論の最初に登場する方剤で、漢方の基本中の基本となる方剤です
陽を補う桂枝
陰を補う芍薬
脾胃を調和し自然治癒力を回復させる生姜大棗甘草
からなり、これをベースに多くの加味方や合方があります。

附子はトリカブトの子根で、生薬の中でも一番温める力が強く、鎮痛、新陳代謝亢進の作用があります。
トリカブトはこの辺では伊吹山のイブキトリカブトが有名で、夏の終わりから秋に紫色の独特の花を咲かせます。
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朮には白朮(オケラ)と蒼朮(ホソバオケラ)があり、どちらも利水作用がありますが
蒼朮は表の利水(体表に近い部分の利水、神経痛や関節痛に)
白朮は裏の利水(胃腸機能を高め、水分代謝障害に)
なので、桂枝加朮附湯の朮は本来は蒼朮を使います
蒼朮の中でも白く精油が浮き出た古立蒼朮が良品ですが、浮き出すぎていないものがベストです
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昔、日本産の純粋な蒼朮が佐渡島にあり、栽培もされていたとの事で、佐渡島まで見学、探求に行こうと計画したのですが、現在は全くないと言われ断念しました…