先日、金曜日は社内勉強会の日
まずは4月の養生法。
美香穂先生を講師として東洋医学的な養生法の講習をを毎月1回行っています。
その後は毎月なら症例検討会を行うのですが、今回はその前に時間を取り、長浜市の認知症サポーター養成講座を受講しました

認知症キャラバンメイトの方にお越しいただき約90分の講義と質疑応答です
お話がとても上手く90分がすぐに過ぎてしまいました。
超高齢化社会を迎えるわが国では認知症はこれから避けては通れない問題です
私個人的にも意識を変えることができました

認知症に関しての漢方的なことはまた別の機会にでも…

さて今回は更年期後の神経症でお悩みの60台女性のご紹介です

更年期を過ぎ、色々体の不調が出てきてしまいました。
神経症で不眠がちといわれます。
背中は冷えるのに、顏からよく汗をかき、のども渇きます。
動悸や疲れやすく、不安から少し鬱っぽくなってきたと言われます。
この方には少陽の熱を解し生津止渇、安神作用のある薬方を選びました。
煎じ薬でお飲み頂いた事もあり、効果はとても早く現われました。
冷えやのどの渇きは一ヶ月ほどで改善し、3ヶ月後には汗や動悸などの多くの症状も治まりました。
不安感も少なくなり、寝られるようになったので自信が出てきて、畑仕事にも気張れるようになりました。
その後5ヶ月間服用し、漢方薬をやめることができました。

~~ちょこっと漢方薬のお話~~

神経症に使う漢方薬に柴胡桂枝乾姜湯(柴胡桂姜湯)があります

薬味は
柴胡、桂枝、括蔞根、黄芩、牡蛎、乾姜、甘草

出典は傷寒論、金匱要略で
傷寒五六日已發汗而復下之胸脋満微結小便不利渇而不嘔但頭汗出往来寒熱心煩者此為未解也柴胡桂枝乾姜湯主之/傷寒論 辨太陽病脈證併治下代五
(傷寒にかかり5,6日経ちすでに発汗し、また下したことで胸脇が少し張り硬くなり、小便の出が悪く、のどが渇くが吐くことは無い、ただ頭だけに汗が出て往来寒熱と心煩するものは、まだ病が解していない。柴胡桂枝乾姜湯が主治する)

柴胡桂姜湯 治瘧寒多微有熱或但寒不熱/金匱要略 瘧病脈證併治第四
(柴胡桂枝乾姜湯は瘧病で少し発熱があり、或はまた寒があるも熱ないものを治す)
*瘧病:悪寒発熱を繰り返す感染症で、現代ではマラリアの事と言われている

方意は
柴胡+黄芩:胸脇の熱証を解する(少陽の邪)
括蔞根:燥証からくる口乾を潤す(虚証の燥)
桂枝+甘草:気の上衝を発散
牡蛎:心煩動悸を治す
甘草+乾姜:裏を温め肺の水毒、脾胃の水毒に対処

少陽の邪を解し体液を潤し気の上衝をしずめる働きです

吉益東洞は類聚方で 小柴胡湯証にして嘔せず痞せず、上衝して渇し、胸腹に動あるものを治す と述べています
小柴胡湯(柴胡、黄芩、半夏、人参、生姜、大棗、甘草)
柴胡桂枝乾姜湯(柴胡、黄芩、括蔞根、桂枝、乾姜、牡蛎、甘草)
薬味を比較すると、小柴胡湯の
半夏(利水、鎮嘔)→括蔞根(潤燥止渇、嘔吐なし)*下に書きます
生姜(利水)→乾姜(温中)
大棗(鎮静、緩める)→牡蛎(鎮静強化)
人参(補気、滋潤)→桂枝(気の上衝)
に変えたものですので、小柴胡湯の虚証として使えます

また、以前に書きましたが柴胡加竜骨牡蠣湯の虚証ですので応用範囲は広く
自律神経失調、更年期不定愁訴、不眠、心臓神経症など虚証の精神症状
肺炎、胆嚢炎、肝炎、すい臓炎、糖尿病、腎炎、胃炎、湿疹…
感冒、気管支炎…

小柴胡湯の半夏と柴胡桂枝乾姜湯の括蔞根の違いですが
半夏は辛、平、利水作用で停滞する水分をさばき(上衝する胃内停水)、嘔吐、咳痰、咽中痛腹中雷鳴などを治します
括蔞根は苦、寒剤で熱をとり、燥を潤し、口喝を治す働きです

半夏はサトイモ科カラスビジャクの塊茎
括蔞根はウリ科キカラスウリの根
全く違う植物ですが和名には両方にカラス(烏)が使われているのがおもしろいですね

キカラスウリですがカラスウリは赤い果実をつけるのに対し、黄色い果実をつけるのでキカラスウリと言います
なぜカラスウリというかはカラスがこの赤い果実を好んで食べるからとされているようですが、
一昨年のNHK朝ドラ「らんまん」の主人公万太郎のモデルとなった植物学者牧野富太郎は
カラスがこれを食べるのを見たことがなく、樹に赤い果実が残っているのをカラスが食べ残したとみなしたから名づけられたと
いう説を唱えられたそうです…

キカラスウリはつる性の多年草で、つる性の植物は水を通す働きがあります
葛根、防已、麻黄、威霊仙などもつる性の植物です

半夏にはえぐみの刺激性があり、薬方にはほとんど毒消しである生姜が配されています。
これはサトイモ科の天南星も同じです。
またあらかじめ生姜で修治したものを姜半夏と言いい、日本では手に入りませんが、中国や韓国では普通に販売されています。

また、金匱要略には柴胡去半夏加括蔞湯があります
これは小柴胡湯去半夏加括蔞根で小柴胡湯の半夏を括蔞根に変えた処方です
小柴胡湯と柴胡桂枝乾姜湯との中間証とも言えますし、半夏に敏感な場合に使えます
漢方を本格的に習い始めた頃、師匠からイモアレルギーの子には半夏に注意するように言われたのを思い出します


(類聚方広義/尾臺堂 より)