GWも過ぎましたが、寒暖の差がとても大きく、夜はまだ暖房をかけている今年です

今回は左手の指がしびれると言う60代の男性のご紹介です

左手の指全体がしびれるとのご相談です
元々、以前から少ししびれを感じることはありましたが、
ひと月ほど前からしびれがきつくなってきました。
日中は特に強く感じるが、夜はまだましなようです
心配で頚椎のレントゲンを撮られましたが、症状が出るほどの変形はなく
原因はよくわからないと言われたとのこと
糸練功で診るとこの方は頚椎~肩のかけての十文字に強張りがあり、膀胱系の異常です
漢方薬を選び、お飲み頂くと一か月でずいぶんましと言われます
2か月目にはほぼ大丈夫になりました。
仕事で手指もよく使うため、現在も予防も兼ねて漢方薬の量を減らしてお続けです

~~ちょこっと漢方薬のお話~~

上半身の痛みやしびれに使う漢方薬に葛根湯があります

言わずと知れた漢方処方の中で一番有名な薬方
江戸小噺の葛根湯医者にもあるように昔から多くの疾患に使われてきました
医療用の漢方顆粒剤でも1番の番号がついていますね

傷寒論の順番で行くと最初に出てくる処方は上編の桂枝湯で、桂枝湯からの桂枝加葛根湯、桂枝加附子湯~~ときて、葛根湯は中編の最初です
でも、漢方の勉強を始めた頃、序文の次に覚えたのは葛根湯の条文でした…

その有名な傷寒論の条文
「太陽病項背強几几無汗悪風葛根湯主之」/傷寒論 辨太陽病脈證併治中第六
(太陽病でうなじから背中にかけて強張り、水鳥が飛び立つときの首の要で、汗が無く寒気がするものは葛根湯が主治する)

薬味は
葛根、麻黄、桂枝、芍薬、生姜、大棗、甘草
麻黄+桂枝で表の寒証・実証に対して発汗し表の水毒を温散し、また筋肉、関節の痛みを温散します
葛根は項背、上焦の強張りを緩める働きですが、つる性の植物で水を通し血液の粘りを潤し、血流を改善して強張りを改善するのです

応用は幅広く上焦の炎症、痛み、しびれなど幅広く使えます
風邪、肺炎、気管支炎、頭痛、肩こり、神経痛、リウマチ…
結膜炎、中耳炎、耳下腺炎、副鼻腔炎、乳腺症、リンパ腺炎、蕁麻疹、皮膚炎、大腸炎、下痢、夜尿症…

加味方は多くあります
葛根湯加桔梗石膏、葛根湯加川芎辛夷、葛根加半夏湯、葛根加苓朮湯、独活葛根湯…

葛根湯は桂枝湯に葛根と麻黄を加味したもので
桂枝湯は基本的に自汗で肌が汗ばむ傾向ですが、葛根湯は表が実で無汗、汗が出ないのが目標です
桂枝湯に葛根のみを加味したものは桂枝加葛根湯でこちらは表虚証です
「太陽病項背強几几反汗出悪風桂枝加葛根湯主之」 となり、返って汗出… となります
表の虚実を判断する場合、汗が出ているか、汗は無いのかは、皮ふにしめりけがあるかをみるのですが
色んな慢性疾患では表虚証の場合も汗は出ていない場合も多く、汗の有無だけで判断するのは難しいです
糸練功を応用すれば麻黄の有無が腹診の肺の位置で判断でき非常に有用です
糸練功の腹診ついでに
おへそ廻りで上焦の血滞の葛根、腹診の心の位置で桂枝甘草、腹直筋で芍薬 が判断できます

傷寒論の葛根湯の次の条文は
「太陽與陽明合病者必自下利葛根湯主之」
(太陽と陽明の合病では必ず自ら下痢をするものである、葛根湯が主治する)

合病とは一つの病が同時にいくつかの病位に現れることを言います
葛根湯の条文では、風邪等の邪気が入ったが表が固くふさがっているために、その邪が裏に入って下痢を起こしてしまったものなので、これには表を開き発汗させてやれば良いということです
合病の治療原則は
太陽病と陽明病では太陽病の治療
太陽病と少陽病では少陽病の治療
少陽病と陽明病では陽明病の治療
太陽、少陽、陽明の三陽の合病は陽明病の治療
です

また傷寒論には合病ではなく併病という状態があります
病が移行していくときに2つの病位が同時に現れた状態を併病と言います
「二陽併病太陽初得病時發其汗汗先出不徹因轉属陽明続自微汗出不悪寒若太陽病證不罷者不可下下之為逆如此可小發汗…」
(二陽の併病でまず太陽病のときに発汗をしたが汗の出方が不十分で、裏の陽明にも入り込んでしまい、続いて汗が少し出て、悪寒がしなくなった。この時太陽病の証がやまない場合は下してはいけない、下すことは逆治になり、この場合は少し汗を発するべきである…)
太陽病が治りきらないのに、邪の一部が陽明に入った状態です

併病の治療原則は、漢方治療の基本原則どおりで先表後裏です
先に太陽病の治療で表の邪を十分に除いてから、必要であれば裏の治療(陽明病)をすることになります

また、例外的に先急後緩を使う事もあります
「二陽併病太陽證罷但發潮熱手足漐漐汗出大便難而譫語者下之則愈宜大承気湯」/傷寒論 辨陽明脈證併治第八
(太陽と陽明の併病で太陽病の證は消失し、潮熱を発して手足まで全身に汗がじとじと出て大便が出ずうわ言をいう者はこれを下すと治る。これには大承気湯が良い)
併病でも便秘がひどく潮熱、うわ言をいうような状態には、まず陽明の裏を攻め治療します

先表後裏の原則は慢性病の治療で、薬方を二方以上使う場合の服用法でも当てはまります
(先急後緩になる場合もあります)

話は葛根湯に戻しますが
葛根の働きは先に述べたように水を通し血液の粘りを下げるため、甲把流腹診では痰塊と血塊の上焦に出ます
また葛根は君火で葛根湯も君火です
桂枝湯は相火ですが、桂枝加葛根湯は君火です
君火相火については漢方の奥深さや不思議さを感じます
漢方の妙ですね

浅田宗伯は勿誤薬室方函口訣で葛根湯について
「此方外感ノ項背強急ニ用ルコトハ五尺ノ童子モ知ルコトナレドモ古方ノ妙用種々ナリテ思議スベカラズ。譬バ積年肩背ニ凝結アリテ其痛時々心下ニサシコム者此方ニテ一汗スレバ忘ルルガ如シ…」

五尺の童子とは子供のことを言い、葛根湯は風邪の肩背の強張りに用いることは子供でも知っている
しかし古方の素晴らしい効果は非常に多く、考えられないぐらいである、例えば長い年月の間、肩背が強張り時々その痛みがみぞおちまで差し込む者が葛根湯で一汗かかせれば忘れるぐらいである…
と述べています


(勿誤薬室方函口訣/浅田宗伯より)